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2006年9月 4日 (月)

魔界転生(舞台)

新橋演舞場で「魔界転生」を鑑賞。
「魔界転生」は未読で、山田風太郎で読んだのは今のところ「警視庁草紙」だけなのだけど、エログロ要素の混ざり具合、ちょっとキッチュで、それでいて下品にならないところ、作品の根底に流れる人生観みたいなものが舞台から感じられた。
舞台が終わった後の寂寥感も、読後感と似ていたし。
天草四郎をフィーチャーした点は映画版に倣っているし、そこは原作とは違うということは一応知識としては知っているのだけど、「山田風太郎の本はこういうところが面白いんだよ」という部分を舞台に再現した、という感じを受けました。
文字で読んだままを想像したり、映像にするとエグくなりかねない部分が、お芝居の制約故にリアルでなかったのは私にとって好ましかった点。山田風太郎の文体や歴史観は好きなのだけど、エログロの部分はちょっと苦手なので。
山田風太郎テイストはなんとなく感じるし、原作との相違は気にならない、というスタンスで見ることができたのは良かった。

さて、成宮君の天草四郎ですが、予想していたよりも「ワル」でした(笑)。
もう少し「儚げな美少年系」で行くのかと思ったら、妖艶モード全開。
あんまり悪そうなんで、メイクがきつすぎるんじゃないかと思ったりしたけど、終演後の挨拶ではメイクはそのままで素の成宮君の顔に戻っていたので、演技だったのね、と納得。

終盤の長台詞では台詞回しにうるさい人には何かいわれそうだなーと思うところもあったけど、全体的に所作の美しさと存在感、魔性ぶりは良かったです。
時折双眼鏡で見る表情はもちろん妖しいのだけれど、立ち姿と動作だけでも十二分に妖艶さが漂っていた。
個人的な好みでいうと「一見清らかそうな美少年が悪事を働く」というほうが意外性があって面白いと思うし、成宮君の外見にはより似合っていると思うのだけど、映像はともかく舞台では難しいかもしれない。

一番印象的だったのは、由比正雪と袂を分かつ場面。
星占いで正雪の死期を予言した四郎に、正雪が四郎自身の死期について問うと、「何度占っても8年前(島原の乱)に死んだことになっている」と言うところ。
自分の運命を変えられない四郎の自嘲のような、諦観のような台詞の抑揚と表情がとても心に染みました。
それまではひたすら「妖しい魔物」だった天草四郎に哀れさ、儚さが感じたシーンだった。
天草四郎以外で印象に残ったのは、四郎と濡れ場を演じたお品役の馬渕英俚可の背中と足。とてもきれいだった。
遠藤久美子の意外な悪女っぷりも良かったです。
あとは子役が達者だったこと、幽霊がガイド役の地理説明も面白かったことなど。

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ところで、関連するブログを見ていたら、成宮君の台詞を棒読みと批判している意見があって、これにはかなり驚いてしまった。
少なくとも棒読みには聞こえなかったので。これは「絶対に」といってもいい。
よしんば他にまだ改善の余地があるとしても、抑揚に関しては特に問題は感じなかったし、むしろ、もっと抑揚をおさえ気味にして無機質に演じても「魔物らしさ」が出てよかったかもしれない、と思ったくらいです。
この舞台での成宮君の台詞回しが棒読みに聞こえる人は、演出による意図的な棒読みとか、笠智衆の演技をどんなふうに評価するんだろう、と思ってしまった。

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追記:
出演者の顔ぶれは歌舞伎、新劇、アングラ、小劇団と多岐にわたっていて、異種格闘技みたいな感じだけど、違和感はなく観ていました。
これで誰かが突出して下手だったり動きが悪かったり、役のイメージとズレていたりすると、アンサンブルが乱れて気になったのだろうけど、そんなこともなかったし。

で、成宮君以外で私が観るのを楽しみにしていたのが升毅と西岡徳馬。
升毅のお殿様ぶりは良かったです。
ものすごく情けない破目に陥る人なんだけど、でも厳としてお殿様で品はある、という役どころがぴったりだった。
西岡徳馬の宮本武蔵は、巌流島のイメージとは違って白髭の老人だし、「武蔵らしい」というわけではなかったけれど、「西岡徳馬は」ではなく「この武蔵は・・・」と役名で言いたくなってしまうのはなぜだろう。
主役の柳生十兵衛は、もとから持っているイメージからすると中村橋之助では優男過ぎるかなと思わないでもなかったけれど、この舞台ではその軽快さが効いていた。おどろおどろしい話の中の清涼剤のような。
声の通りの良さと安定感はさすがです。

と、成宮君以外の俳優への感想がないわけではないのだけど、特に不満がないとなかなかでてこなかったりする。
語りたくなる時は、大体ものすごーーーく好きか、ものすごく不満な時なので。

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コメント

きつねさん こんにちは
お久しぶりですが、覚えていらっしゃいますか?
(毎日覗かせていただいております)

魔界転生 ご覧になられたのですね。
美しく妖艶な天草四郎になっているのは
知っておりましたが、
”相当”妖しく、ワルな四郎のようですね(笑)
私も17日観劇予定でおりますので
きつねさんの感想を胸に
しっかり天草四郎を見て参りたいと思います。
成宮君に溺れておりますので
偏った観劇になりそうですが(笑)
あと他の共演者の方々の感想なども
お聞かせ願えませんか?

ところでGyaoで配信中の
「スイッチを押すとき」は
ご覧になっていらっしゃらないのでしょうか?
感想をお聞きしたいです。

投稿: ひろろん | 2006年9月 5日 (火) 11時39分

コメントありがとうございます。
他の出演者についての感想を記事のほうに追加しました。

Gyaoの「スイッチを押すとき」は初回のみ視聴しました。
いずれは続きを見るつもりですが、なにしろテーマが重いので、気持ちと時間の余裕がある時に見たいと思っています。

投稿: きつね | 2006年9月 5日 (火) 22時31分

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