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2006年9月21日 (木)

「時の娘」的豊臣秀次再び

ついに小和田哲男の「豊臣秀次-「殺生関白」の悲劇」を買ってしまった。
もともと「悪逆非道な云々」という話は、たとえば皇帝ネロの乱行なんかも話半分に解釈するほうなので、秀次についても悪評のほとんどが秀頼誕生以降ということから眉唾だとは思っていた。
これを読んで乱行が冤罪だっただけでなく、かなり有能な人だったことを改めて認識。
豊臣家では、どちらかといえば叔父の秀長と同じような位置づけで遇されていて、朝鮮戦役の留守居役でも手抜かりはなかったし、それ以前にも饗応役を何度となく恙なく務めていたり。
ルイス・フロイスにも褒められていた、と。
「仕事に目立った失敗がない」っていうの、地味だけど実は難しいことだと思うのですね。

本の終わりのほうに秀次の問題点も載せていたけど、これはあってもいいけど特には要らなかったかな。
完全無欠な人間などいないのだし、何らかの欠点は誰しもあって当然。
その欠点が、死後の悪評もやむなしと思われるようなものなのか、というのが眼目だから、秀次は伝えられるような殺生はしておらず、それなりに有能な人物でもあった、という説に自信があるのなら、余計なエクスキューズはなくていいのに。

なんとなく大河ドラマで豊臣秀次を演じた人を調べていたら、1965年の「太閤記」では田村正和、1971年の「春の坂道」では伊藤孝雄が演じていたということで、これも意外でした。
私の記憶にあるのは「黄金の日日」の桜木健一(小物な雰囲気を好演していた)以降で、その後が情緒不安定な陣内孝則の秀次、その前後に「豊臣家の人々」を読んだため、殺生をしたかどうかはともかく暗愚で好感の持てそうもない秀次像がインプットされていたのだけど、昔は二枚目の役だったのか?

そういえば、7月に時代劇専門チャンネルで放送された映画「忍びの者」シリーズ(の劇場予告編)に出てきた豊臣秀次も二枚目俳優が演じていて"良い人"そうだったし。
なお、田村正和はわざわざ説明するまでもない「古畑任三郎」ですが、伊藤孝雄は「草燃える」で阿野全成、「花神」で徳川慶喜を演じたクールビューティかつ知的な演技派です。
どちらもドラマは未見なので、実際にどういうふうに描いたのかは知らないけど、この人たちが演じたのだったら、秀次って昔はそんなに悪いイメージで描かれてはいなかったんじゃないか。
殺生関白説は説としては知られてはいても「そういう説もある」くらいの認識で定説ではなかったんじゃないか。
ネットを検索しても、「殺生関白と呼ばれた・・・」と記述しているサイトは山ほどヒットするけど、「殺生関白」を元にした創作も少なく、あっても伝奇小説みたいなものだから影響力があったとは考えにくい。
司馬遼太郎の「功名が辻」と「豊臣家の人々」(「殺生関白」収録)が出た後に秀次のイメージが変わっていったのかも、などという考えも浮かんできた。
司馬遼太郎なら、それくらいの説得力と影響力はあるし。
それで、久しぶりに「殺生関白」を読んでみたら、秀次が文芸の保護に努めたことなんかはちゃんと書いてあって、でも、その理由の解釈がいちいちネガティブ。それでいて説得力に満ちている。
なにしろ、架空の人物を実在であるかのように勘違いさせてしまうほど(例:「十一番目の志士」の天堂晋助)の司馬遼太郎の文章だから、まったくあり得ないとも言い切れないかな。
もしも、リチャード三世悪人説の定着にトマス・モアとシェイクスピアが果たした役割を、秀次においては司馬遼太郎が果たしたのだとしたら面白いと思う。
さらに、そのイメージ回復に成宮君が一役買ったというのも楽しい想像。
ただ、そうだとしても、それを司馬遼太郎原作のドラマで、というのはどうなんだろうか、という気はするけど。

リチャード三世の悪行が冤罪だったことは定説になりつつあって、舞台のDVDの解説でもわざわざ触れているくらいだけど、だからといってシェイクスピアの戯曲を変えて上演したりはしない。
作品中の設定はあくまでも作品中の設定。
舞台上のリチャード三世が2王子殺害を命じた悪人で、亡霊たちに「絶望して死ね」と言われることは変わらない。
司馬遼太郎の秀次の描き方は「ひっどーい」と思うけれど、「司馬遼太郎原作」と銘打ってドラマを制作するのなら、その解釈と構築した人物像は尊重するのが筋じゃないか、という気持ちもあります。
これは作品への敬意として。

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それにしても、司馬遼太郎が、なぜ秀次に対して過剰と思えるくらい手厳しい描き方をしたのか不思議です。
徳川秀忠に対してもわりと手厳しいから「二代目」が嫌いなのだろうか、と思ったり。
(徳川秀忠には池波正太郎も辛辣だけど、この時代の男性作家ってそういう傾向があるのかな?)
・・・なんだか二代目の話になってしまった。

なお、田村正和は昔から台詞回しとか発声が変わっていないので、先日の成宮秀次の台詞を古畑任三郎に置き換えて思い浮かべてみるのもまた一興かと。

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