ブーリン家の姉妹
「ブーリン家の姉妹」を観てきました。
ネットの評判が辛口なものが多くて、たしかに観終わってから「もうちょっと」と思う場面もあったけど、当時の肖像画から抜け出たような衣装の数々を見るだけでも楽しめたし音楽も良かった。
衣装デザインは「恋に落ちたシェイクスピア」のサンディ・パウエルで、この人の衣装は時代の雰囲気を醸しだしていて好き。
アンの衣装のみがちょっと異質な感じがしたけど、それはわざと狙ったのかなと思った。
原題になっている「もう一人のブーリン娘」メアリー役のスカーレット・ヨハンソンは好演で、おっとりとして、家族の野心の道具にされながらも、運命に流されそうで流されないメアリー・ブーリンで、衣装もとても似合っていた。
「真珠の耳飾りの少女」でコスチューム物が似合うことは知っていたけど、この映画のメアリーの衣装は全部素敵です。
一方、アン・ブーリン役のナタリー・ポートマンは大熱演。
この映画のアン・ブーリンはかなりイヤな女性だけど、よくもここまで演じたなーと思う。
20年前ならヘレナ・ボナム・カーターで見たかった役だけど。
原作の上巻を読み終えたところで映画を観にいったので、前半は原作との違いを考えながら、後半は予備知識なしで観ることになった。
レディ・ブーリン(アンとメアリーの母親)の性格が原作とは変えられていたけど、これについては映画のほうが良かった。
原作のレディ・ブーリンはあまりにひどい母親で、逆にリアリティを欠いていたので。
クリスティン・スコット・トーマスがとても味があって、自分自身は大貴族の娘で、その矜持を持ちつつも新興の夫を支える妻、という感じがよくでていた。
それからキャサリン王妃役のアナ・トレント。
顔だけみた時は「え、これが?」と思ったけど、自らの正当性を主張する場面など、優雅で堂々とした威厳のある王妃でした。
ヘンリー8世のエリック・バナは、年齢的にもぴったりだし、トロイのへクトールが良かったので、かなり期待していたのだけど、可もなく不可もなく、という感じだったのがちょっと残念。
「1000日のアン」のリチャード・バートンのような「むせかえるような男の色気」を期待したのですが(笑)
原作を端折るのは上映時間の制約があるからしかたがないのだけれど、アンとメアリーが表舞台に登場する前にヘンリーが愛人に庶子を生ませていたことは、ナレーションだけでも説明したほうが良かったんじゃないかと思う。
ヘンリーが「嫡出の男子」に執着していることを説明するために。
もっとも、なにをどうやっても、ヘンリー8世はよくわからない人ではありますが。
一国の君主の心理など簡単に理解できるものではないんだけど、それでも、たいていの場合、その行動にある程度の一貫性はあるもの。
生まれながらにして型破りだったり、生涯を通して謹厳実直だったり。
でも、ヘンリー8世は法王から「信仰の擁護者」の称号を受けるほど熱烈なカトリック信者で、いってみれば優等生だったのに、いざ王妃との離婚問題が発生するとローマ・カトリック教会から離脱。
恋愛至上主義だとしたら祖父のエドワード4世ゆずりともいえるけど、エドワード4世はシラッと重婚していたりとずぶとい人でもあったのに、そういうわけでもない。
英国国教会まで作って結婚したアンのことは3年で離婚・処刑してしまうし。
嫡出の男子にこだわるのなら、安産だった女性と結婚すれば確実だろうに庶子を生んだ女性たちには冷淡。
ほんとになにがしたかったのかと思ってしまう。
「1000日のアン」を観たくなったので、DVDを出すかWOWOWで放送するかしてほしい。
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追記:
原作を読了。
原作にはカール5世(スペイン王・神聖ローマ帝国皇帝)とフランソワ1世が戦ったパヴィアの戦いとその戦後処理がヘンリー8世とキャサリン王妃の関係に影響するくだりがあって、面白かった。
アン・ブーリンは映画よりもより一層悪辣なイヤな女で、後半はそれがさらに加速。
王妃になって以降のアンが追いつめられていく様子は面白いし、ストーリーとしては辻褄はあっているけど、いささかやりすぎの感は否めない。
あまり極端な説って敬遠してしまうんですよね。
ヘンリー8世がアンを追いつめるやり方は「エリザベス~愛と陰謀の王宮」でエリザベスがエセックス伯を追いつめるところと重なって、可愛さ余って憎さ100倍という感じ。
狡猾さといい強引さといい、似たもの親子。
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