映画「休暇」
「休暇」を観てきました。
刑務官の一人である平井(小林薫)がシングルマザーと遅い結婚をする話と並行して、おとなしく模範的な死刑囚金田(西島秀俊)の日常生活から死刑執行までとそれをめぐる刑務官たちを描いた映画です。
主人公の平井は真面目な刑務官で他人にも家族にもあまり関心を示さない人。新婚旅行中、妻(大塚寧々)に「あなた私たちに興味ないでしょ」と指摘されたりもする。
でも、妻と連れ子との新しい生活のことはとても大切に考えていて、なんとか新婚旅行のための休暇を得ようと誰もが尻込みする死刑の際の「支え役」を申し出る。
死刑執行は係わった刑務官の精神的負担が大きいため、担当になると1日の休暇、「支え役」と言われる役目は特に負担が大きいため一週間の休暇を取得できることになっているから。
死刑執行が決まったことは直前まで本人に固く秘すことになっているけれど、新人刑務官(柏原収史)と上司の三島(大杉漣)は金田に「欲しいものはありませんか」と聞いてしまい、特別な希望を叶えようと計らう。
しかし、そのことから執行命令が下ったことに気づかれて、日頃はおとなしい金田が突然暴れ出してしまう。
優しさを示すというのは難しいと思うと共に、穏やかで達観しているように見えても死刑囚が敏感で緊張状態にいることに気づかされる場面。
死刑執行の前日が平井の結婚式で、刑務官たちも出席するのだけど、新人刑務官以外は披露宴の料理がほとんど咽喉を通らず残してしまう。
そして執行の朝を迎え、それまで弁護士に上申書を書くように促されても投げやりな態度で、すべてを諦めたように淡々と過ごしていた金田も、執行を告げられて刑場に連れて行かれる時は恐怖のあまり立つこともできなくなり、刑務官たちに支えられながら刑場に向かう。
この場面が一番リアルに感じられて衝撃を受けました。
覚悟はしていても「その時」の恐怖は違うのだ、と。
実はここで反射的に涙が出てしまったけれど、それは可哀想とか感動によるものではなく、驚いた時、恐怖を感じた時に思わず出てしまう涙だったと思う。
死への恐怖とか悔恨が入り混じった金田の表情には胸を衝かれながらも(演じているのが西島秀俊でもあるし)、映画の中では金田の罪状については触れられていないけど、死刑判決を受けたということはそれ相応の罪を犯しているわけで、彼が手にかけた人たちも恐怖を味わったか、もしくは恐怖を感じる時間すら与えられずに命を奪われている、ということは心して見ました。
執行後、その場に立ち会った関係者が皆、厳粛に手を合わせて立ち去る姿が印象的。
手続きを考えれば当然といえば当然なのだけど、医師も立ち会っているんですね。
それから、求刑した検事も。
金田が、自分に同情を示す二人ではなく、規則に厳格な平井に信頼をおいていて、結婚のお祝いとして自分の描いた絵を渡し、刑に処される前にも遺書を渡す相手として迷わず平井を選んだことが感慨深い。
DVDで「カナリア」を観た時にも思ったけど、とても重いテーマだけど、描かれるべき物語、作られるべき映画というのがあって、これもその一本。
そして、そういう映画を見るかどうかの選択において、キャストというのは大きい要素だと思う。
| 固定リンク
「映画(邦画)」カテゴリの記事
- ゆきてかへらぬ(2025.04.20)
- 鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー(2022.06.05)
- シン・ウルトラマン(2022.06.05)
- ドライブ・マイ・カー、米アカデミー賞ノミネート(2022.02.12)
- 劇場版・昨日なに食べた(2021.11.13)
「俳優(西島秀俊)」カテゴリの記事
- シン・ウルトラマン(2022.06.05)
- 米アカデミー賞 2022(2022.03.31)
- ドライブ・マイ・カー、米アカデミー賞ノミネート(2022.02.12)
- シェフは名探偵~ビストロ・パ・マルのレシピ帖(2021.12.19)
- 劇場版・昨日なに食べた(2021.11.13)
コメント