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2008年12月16日 (火)

トニー滝谷

DVDでトニー滝谷を観ました。
映画の評判が良いことはなんとなく聞き知っていたし、市川準監督の「BU・SU」は好きだったし、原作は村上春樹だし・・・と思いながら見そびれていたのをようやく。
「西島秀俊がナレーションを担当している」ということに肩を押されました。
村上春樹は「風の歌を聴け」から「ダンス・ダンス・ダンス」あたりまでがとても好きなのだけど、「トニー滝谷」はそれ以降の作品ながら初期のテイストを残している短編。
映画はキャスト、映像、語り、音楽と、すべてがよかった。
イッセー尾形は、孤独に馴染み孤独を恐れるトニー滝谷を体現。
物欲のかたまりともいえる買い物依存症と透明感が両立する女性なんてそうはいないと思うけど、宮沢りえはさらりと演じていて、「服を着るために生まれてきた」妻と、求人募集に応募する女性(オードリー・ヘップバーンに似ている)がそれぞれ魅力的。
坂本龍一の音楽が美しいのはもちろんのこと、ところどころ流れるジャズ、小さな物音など、「音」全般も印象深い。

トニー滝谷の本当の名前は、本当にトニー滝谷だった


映画のかなりの部分を占めるナレーションは、ナレーションというよりはほとんど小説の朗読なのだけど、西島秀俊の声と物憂げな語り口が村上春樹の無機質で透明感のある世界に調和していて、もともと好きな声だけど、ここまで合うとは思わなかった。
これから村上春樹を読む時は「西島秀俊の声」で読むことになるでしょう。
とりわけ初期の短編は。

開かずの本棚から「トニー滝谷」所収の「レキシントンの幽霊」を引っ張り出しました。
これを読むのは、たぶん10年ぶり。

初監督作の「BU・SU」を観た印象から、市川準は映像のみでも物語を語ることができる監督だけれど、その人がナレーションを多く入れたり、ナレーションの一部を登場人物に語らせたり、というのは、それだけ村上春樹の言葉と文体をリスペクトしているということ。
基本的には映画と原作は別物で、原作を読まなくても楽しめるように作るべきだと思っているけど、この映画は例外。
原作ファンによる原作ファン--その中でも村上春樹の文体に思い入れを持つ人--のための映画。
で、それでいいと思う、というか、そこが好きです。


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ラストは原作とは違っていて、映画で原作の終わり方だと救いがない、ということなんだろうか。
それもわからないではないけど、原作の空虚な感じ、好きなんだけどな。

トニー滝谷は今度こそ本当にひとりぼっちになった。


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