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2009年2月11日 (水)

空の羊~向田邦子新春シリーズ

TBSチャンネルで放送された向田邦子新春シリーズより、「空の羊」と「あ・うん」を見ました。
このTBS版の向田邦子シリーズは、向田邦子というよりは久世光彦色が強く感じられたので、リアルタイムでは見たり見なかったり。
「空の羊」は見なかったうちの一本で、次女の恋人役で西島秀俊が出演していたと知ってから放送を心待ちにしていました。
久世光彦の演出も今となってはもう見られないし、西島秀俊が出ていて、向田邦子が原作、久世光彦が演出、金子成人の脚本とくれば、これは見ずばなるまい。

「空の羊」は昭和13年の東京、女ばかりの桂木家を舞台にした物語。
三姉妹を演じているのが田中裕子、戸田菜穂、田畑智子、母親が加藤治子、桂木家に出入りする落語家を小林薫が演じています。
西島秀俊が演じたのは桂木家の次女五重の恋人。
作家の卵で「純情きらり」の杉冬吾と「さよならみどりちゃん」のユタカを足して2で割って零下まで冷やしたような男。
登場シーンはそんなに多くないのだけど、和服姿も表情も昭和13年という時代背景に馴染んでいて、亀和田武が「昭和の顔」と評したこともむべなるかな、と思う。
そういえば「花へんろ」の戦後編にも出ていたっていうし、向田邦子、久世光彦、早坂暁の関わった作品に出演しているのがなんとなくうれしい。

小林薫とともに、このシリーズのレギュラーである長女役の田中裕子は無論のこと、戸田菜穂と田畑智子も昭和10年代の雰囲気に馴染んでいて良かった。
こういう戦前の中流階級の家庭を舞台にしたドラマって、若いうちは演技力以上に地の部分が試されるというか、育ちが見えてしまうものだけど、戸田菜穂と田畑智子からは育ちの良さがそこはかとなく感じられた。
時代劇であるとか、同じ昭和を舞台にした作品でも構溝正史とか江戸川乱歩等の非日常的な物語は思いきって役作りできるけど、向田邦子のように日常を描いたドラマは、微妙な違いであるだけ雰囲気を出すのが難しくなってきているんじゃないかな。


それから「あ・うん」
小林薫、田中裕子、樋口可南子と好きな俳優が揃っているのだけど、NHKのオリジナル版(と言わせてもらおう)のキャストへの思い入れが強くて、敢えて見なかった作品。
樋口可南子が君子役には綺麗過ぎるように感じたものの、出演者はみな好演。
さと子役の池脇千鶴も良かったし、さと子のお見合い相手を演じた窪塚洋介も戦前の雰囲気に違和感がなく、育ちの良い帝大生らしさが出ていた。
(窪塚洋介の髪型は似合っているとは言いがたいのだけど、自分の容姿よりも役柄のリアリティを優先した心意気を買う。)
見るまでは小林薫はてっきり夜学での謹厳実直な水田仙吉役なのかと思っていたのだけど、門倉役だったのですね。
「粋な二枚目」の小林薫を見たのは、ものすごく久しぶりな気がする。
これはこれで良いなと思うと同時にNHK版の杉浦直樹の素晴らしさもまた再確認してしまった。

NHK版のエンディングテーマ曲は「アルビノーニのアダージョ」だったけど、こちらはエンディングに「ディドの嘆き」。
どっちも好きです。


ところで「空の羊」出演時は西島秀俊は26歳くらいだけど、それについてドラマとは別に思うところがありました。
和服姿の26歳の西島秀俊は、今の20代後半の俳優とずいぶん違って、顔つきや表情が大人だなと思った。
現代人は昔よりも若く見えるようになっているというのは以前から言われていることで、「サザエさん24歳マスオさん28歳」をちょくちょく冗談のネタにしてきたけれど、たった10年ほどでこんなに変化があったのかと、そのことにちょっと驚いた。
かといって12年前の西島秀俊が今の20代よりも物理的に老けていたわけではなく、お肌なんかはつるつるで顔そのものは若い。
そして、ドラマで演じているのは人間として未熟な青年なのだけど、でも前提として「大人」なんです。
「未熟な大人」だったり「幼稚な大人」だったりするけれど、とにかく大人の階段は登りきっている。
でも、現在の20代後半の俳優の多くはどこか少年っぽい。
年齢的には立派に青年なのだけど、青年というよりは「老成した少年」に見える。
で、それが良いことか悪いことかというと、ちょっと否定的だったりする。
若く見えるのは基本的には良いことだし、「マスオさん28歳」は老けすぎなのだけど、あまりいつまでも少年っぽさを引きずるのは、役の幅という点ではマイナスになるんじゃないかと思うのです。
ファンが若々しさとか可愛さを求めていたりすると、大人の男への脱皮もなかなか簡単じゃないだろうし、男っぽさを狙いすぎてあまりにワイルドになりすぎるのもうれしくないけど。

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