アンの娘リラ
「アンの娘リラ」は、ルーシー・モード・モンゴメリーのアン・ブックスの最終巻。
アン、スーザン、ミス・コーネリアが新聞を見ながら世間話をしているところから物語が始まる。
その新聞の片隅には小さくサラエボ事件のことが載っているけれど、アンたちは「自分たちには関係のない出来事」と一蹴し、村の若者の恋愛の噂に夢中になる。
数日後、アンの末娘リラが心待ちにしていたダンスパーティのさなか、欧州で戦争が勃発したというニュースが伝えられる。4年にわたる第一次大戦開戦。
ブライス家の男の子たちをはじめグレン・セント・メアリ村の若者が出征していくと、スーザンはむさぼるように戦況のニュースを読むようになり、世界情勢にも無関心ではいられなくなる。
享楽的で野心を持たなかったリラには責任感が芽生え、兄たちと恋人ケネスを案じながら、第一次大戦の4年間で目覚しい成長を遂げる。
戦争を肯定も否定もしていないけれど、戦争が人々の生活の隅々まで影を落としていく様子が余すところなく描かれていて、戦時下を描いた小説として屈指の名作じゃないかと思う。
パーティの最中に開戦の知らせが来る場面などは「風と共に去りぬ」にも影響を与えていそう。
作中、スーザンとアンの「奥さん、“Reims”はどう読むんですかね」、「私にも謎よ」というやりとりが出てくるのだけど、自分の身内がフランスの戦地に行くまで、アンたちにとってランスは読み方すらわからない無縁な街だった。
壮麗な大聖堂や美味しいシャンパン、ジャンヌ・ダルクの物語を通じてランスの街を知るのは幸せなことだけど、戦争で知るのは辛いよね、なんてことをランスを訪れた際にふと考えたりした。
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