和宮様御留(ドラマ)
時代劇専門チャンネルで放送された「和宮様御留」を視聴。
お正月に放送された時に録画するのを忘れて、たいそう悔やんだ作品なので、ちゃんと見ることができてうれしい。
オープニングの時代背景の説明については、ちょっとどうかなと思う点もあったけれど、それ以外は原作の好きな場面・台詞をきちんとおさえ、雰囲気をあまさず表現している。
配役も素晴らしい。
大竹しのぶ、岡田奈々、池上季美子、永島敏行、勧行院の森光子、橋本中将の藤田まこと、藤の音羽信子、庭田嗣子の園佳也子、能登命婦の吉田日出子は覚えていたし、中村玉緒の少進、財津一郎の岩倉具視で佐藤慶の酒井忠義、小林桂樹の名主覚左衛門、丹阿弥谷津子、宇都宮雅代は今回見てそうだったかと思ったけれど、いずれも好演・名演ばかり。
基本的にドラマと原作は別物と考えることにしているけれど、好きな原作の場合、忠実にドラマ化した作品を見るのは無上の喜びです。
ちなみに、原作でとても印象的だったけどテレビでは割愛されていたのがフキのお茶のお稽古の場面。
それと、原作と比べると少進の登場場面が少ない。
本物かどうか「中の人」が誰かは関係なく、「自分が仕える人が和宮なのだ」という少進の信念は徹底していて、ある意味非情でさえあって、そこが面白いんだけど、これを単発のドラマで描くのは難しく、しかたがないことなんだろうと思う。
俳優陣はみんな良かったけど、やはり特筆すべきはフキ役の大竹しのぶ。
祇園祭のお囃子と水汲みが大好きな、無学だけど働き者の素朴な少女が、理由も知らされずに和宮の身代わりにされ、不安と旅の疲労で神経をすりへらし、ついには狂ってしまう。
原作には旅の状況とフキの心の動きが緻密に描きこまれているのだけど、これを完璧に表現した演出と大竹しのぶの演技の凄いこと。
精神的に追いつめられていくフキから神経がひりひりするような緊張感が伝わってきて、唯一の味方だと思っている少進の顔を見て感情を抑えられなくなる、というあたりがとてもリアル。
テレビドラマに関しては、大竹しのぶは常に良いとは限らず、役にあっていなかったり、オーバーアクトで浮いて見えることもママあったりするんだけど、このフキ役と大竹しのぶは見応え十分、がっぷり組んで不足なし。
こういう、時々本当に圧倒されることがあるのが名女優たるゆえん。
狂乱とか感情の大きな振り幅を演じられる役者は多いけど(みんなプロだし)、精神の糸がプツッと切れた様子、肉体はそこに存在しながら心がどこかに行ってしまった様子を演じられる人となるとそんなに多くない。
「和宮様御留」の大竹しのぶを見て、「ハムレット」のヘレナ・ボナム・カーター、「アデルの恋の物語」と「カミーユ・クローデル」のイザベル・アジャーニを思い出した。
狂気の演技だけでなく、橋本中将の妻が挨拶に来た場面も哀切で印象深かった。
元の主人と再会したフキの懐かしむような縋るような目。
思いもよらない大きな運命の渦に巻き込まれたフキを見る中将の妻しずの痛ましげな表情。
いずれが狐か狸かみたいな面々の中で、この「しず」さんと高田村の名主夫妻は善人なのだけど、丹阿弥谷津子・小林桂樹・高田敏江と、見ただけでホッとする雰囲気の俳優が演じているのも行き届いたキャスティングだと思う。
衣装も今見ても豪華で、豪華なだけでなく原作の描写にも忠実。
特に宇多絵の婚礼用の紫地に極彩色の振袖が原作で読んでイメージしたとおりで、ここまで原作を読んで想像したのと一致する衣装というのは「風と共に去りぬ」の緑の小枝模様のアフタヌーンドレスくらいしか思い浮かばないくらいどす。
数々の御所風の着物も新鮮。
土井役の若き永島敏行が、青年武士の爽やかな雰囲気や佇まいを醸しつつ、滑舌が壊滅的なのに苦笑してしまった。
何言っているか聞き取れない。
私が若手俳優の滑舌をあまりとやかく言わないのは、今それなりに評価されている人でもデビュー当時はかなり酷く、それに比べるとイマドキの若手はましに思えることが多いからだったりする。
名作と記憶していたけど、記憶していた以上に良かったです。
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コメント
今いちばん見たい作品が、大竹しのぶの和宮様御留ですが、
誰か、録画でもいいので持っていないか探し回っています。
もしございましたら、コピーさせて頂けませんか?
投稿: 大原 | 2015年5月18日 (月) 01時25分
コメントありがとうございます。
残念ながら録画が残っていないんです。
私ももう一度録画したいので
時代劇専門チャンネルで放送してくれないかと
思っているところです。
投稿: 午後のきつね | 2015年5月19日 (火) 00時44分
私もこのドラマなんとかもう一度見たいです。
オンエア時は小学生でしたが強烈にインパクトがありました。
DVDとかないんでしょうかねー
投稿: ななこ | 2017年8月21日 (月) 18時06分