清水義範夫妻が旅したイタリアとイスラム圏
パスティーシュ小説の名手・清水義範の旅行記を二冊読了。
「夫婦で行くイタリア歴史の街々」と「夫婦で行くイスラムの国々」
出版されたのはイスラム編が先だけど、読んだのはイタリア編が先。
「イタリア歴史の街々」前半の南イタリアは、私が行った場所とかなり重なっていたので、自分の旅を思い返すような気持ちで読み進み、忘れていることも多かったので記憶の補完にもなりました。
私はナポリからシチリアに向かって南下したので旅した順序は逆だけど。
旅行エッセイを読んでいて、あまりにも丈夫な胃の持ち主も、「梅干とほうじ茶は欠かせません」という人も、どちらも「一緒に旅をするとたいへんそうだな」と思うのだけど、清水夫妻は胃を休めるために街で食材とワインを買ってホテルの部屋で夕食を摂ったりはするけれど、ガイドがセッティングしてくれた中華レストランに行くのは断り、「イタリアに来たからには中華ではなくピザやパスタを食べたい」というくだりに強く深く共感。
そう、旅行中は胃を休めたい時があるけれど、それは食べる量を軽くしたいだけで、和食や中華が食べたいわけじゃないんである。
旅行で行きたい場所や食べ物の好みが奥さんと一致しているのも好ましい。
街で買ったチーズとトマトに機内食の塩をふった手製カプレーゼが美味しそうだった。
本を書くために特別にアレンジされた旅行ではなく、旅行社主催のパッケージツアー参加の旅行記なので、特別な出会いとか危機一髪のハプニングがないかわりに「未知の街に出かけて見たり聞いたりすること」の純度の高い楽しさが詰まっている。
そんな中で意外と大変そうだと思ったのが雨のヴェネツィア。
バスがホテルに横づけできないので、人もスーツケースもゴンドラでホテルまで運ばれるけど、スーツケースの中のものまで雨に濡れてしまったというエピソード。
ヴェネツィアは都会なので、行くとしたら楽勝だと思っていたけど、そういう落とし穴があったとは。
平和なイタリア編を読み終わって、イスラム編も同じような感じかなと読み始めたら、これがとんでもなくたいへん。
気候の違いも大きいし、特にアララト山に行ったあたりの話はハードです。
行き先によってはパッケージツアーもこんなハードな旅行になるのか。
塔の階段でヒーヒー言ってる場合じゃなかった。
それと、旅先で土地のお酒を飲むのは旅行の醍醐味のひとつだから、イスラムの戒律の厳しい国へは「ここへ行きたい」という強い意志がないと行けないなーと思う。
「夫婦で行く・・・」を読むとパックツアーも悪くないなと思えてくると同時に、パックツアーを利用していた時に漠然と感じていた違和感の正体がなんとなく見えてきた気がする。
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私がパックで旅行したのは南イタリアとトルコなのだけど、どちらのツアーも参加者は旅行回数十数回という猛者が大半で、「初めてのヨーロッパなのに、なぜここに?」と珍しがられたりした。
10数回もツアーで旅行する人たちは、「旅行は趣味だけど、どこか積極的に行きたい場所があるわけではなく、いろいろ手配したり自分で細かい計画を立てるのは好まず、パンフレットを見て行き先を決める」タイプが多いと思う。
そういう人たちはリピーターになるし、「可能なら個人で行くわ」派は、必ずツアーを利用するわけではないので、旅行社にとってはツアーを利用してくれるほうが良いお客さんなのは言うまでもない。
ただ、そうなるとツアーの内容も自ずと「旅行そのものが趣味」派に合わせたものになり、そこに、「どうしても行きたい場所があって、そこに行く手段の一つとしてツアーを選んだ旅行者」が参加すると、なんとなく温度差が生じることになるのかな、と。
その温度差が違和感の元で、1人参加だったために、それをより強く感じてしまったのかもしれない。
それと、1人参加は食事の際に気を使うことが多くて、家族5人のテーブルに1人で座るハメになった時の気まずさたるやすごかったし、テーブルでお酒を飲むのが自分ひとりという状況もかなり辛かった。
清水義範夫妻のように気のおけない連れとの2人参加ならパックツアーでも食事時の気まずさは避けられそうだし、温度差にも敏感にならずにすみそうだけど、今は連れがパックツアーを敬遠しているので、世の中ままならないものである。
いえ、個人旅行は楽しいっすけど。
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出張とか長期滞在とか、自分の希望や意思でない場合は別として、旅行に行ったら現地のものを食べるというのは当然のこと、と思っていたけど、それが当然ではない人たちが意外といるみたいである。
欧州に何度も旅行した人から「パリのラーメン屋に行った?」と行くのが当然のように聞かれてキョトンとしてしまったけど、その人はパリでは専らラーメンを食べて、いわゆるフランス料理はほとんど食べていなかったことが後に判明。
その後華流と韓流にはまったので、本来アジア嗜好の人だったのかもしれない。
グアムに行くのに日本料理店について熱心に情報交換している現場に居合わせたこともあった。
いずれも出張とか長期滞在ではなく、長くて10日程度の観光旅行の場合、です。
自分の意思でなく、よんどころない事情で滞在しなくてはならない人が現地の食事に興味を持てなくても、それはしかたがないと思うけど、好きで行く旅行なら、食事も楽しみたいと思う私です。
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