風立ちぬ
Le vent se leve, il faut tenter de vivre...
大正時代から戦前までの上流の子弟・子女の立ち居振る舞い、当時のインテリの気風が見ていてとても心地よかった。
フランス語の詩を説明抜きで唐突に引用して会話が成り立ってしまう教養と機知が素敵。
「まことに生きにくい時代」ではあっただろうけど、人の佇まいの美しさというものが存在した時代でもありました。
能力のある人が、自分の能力に適した夢を追い求める話は大好きです。
ストーリー的には実写でも良いと思うけど、絵の美しさはジブリのアニメならではだし、関東大震災と二郎の夢の場面は実写では描けないだろうなと思う。
カプローニとの邂逅がないと二郎の飛行機製作への業みたいなものが表せないだろうから、夢の場面はとても重要。
それから風の描写も実写では雰囲気が出なさそう。
もしもそれでも実写で映像化することがあるのなら、配役は今回の声の出演をした人たちで・・・といっても、二郎役はさすがに無理だろうから筒井道隆か稲垣吾郎あたり(追加で加瀬亮も)。
カプローニは、「のだめ」か「テルマエ」的アプローチで強引に野村萬斎で。
・・・実写で演じるのは無理といっても、庵野秀明の声は二郎のキャラクターに合っていたと思う。穏やかで浮世離れして、そして技術者に聞こえる。
(この映画の二郎の声に批判的な人はトトロの糸井重里も酷評しているようで、糸井重里のお父さんはよく思いついたなーという絶妙なキャスティングだと思っているので、あれを酷評する人がいるのはかなり意外。)
二郎と本庄のやりとりが、あの時代の技術系インテリの会話としてリアリティがあって、中の人は2人とも台詞の技術的な内容を完全に理解して話しているように感じられるのだけど、そういう効果も狙っての配役だとしたらすごいわ。
なお、この映画の本庄を見て、西島秀俊のいつもの抑揚を抑えた台詞まわしは意図的なものなのだと確信しました。
平和主義者なのに飛行機と兵器好きという監督の矛盾と葛藤を表現した映画とも言えるけど、その矛盾と葛藤こみでこの映画は好き。
愛煙家の禁煙の風潮に対する抵抗みたいに思えなくもない喫煙シーンもアニメだから許せる。といっても、結核の人のそばではタバコ我慢しろ~とは思ったけども。
映画の途中からとても涙もろくなって、映画館を出てからも目がウルウルして「何を見ても涙ぐむ」状態。
これが泣かせどころのはっきりしている映画なら「カタルシス効果ですっきり」になるのだけど、淡々と描写されていることで感情がひたひたと静かに水に満たされたような、そんな感じ。で、なかなか水がひかないと。
病身のために結婚をあきらめるのでも二郎にしがみつくのでもなく、自らのタイムリミットと好きな人と過ごしたいという望みのギリギリのラインを模索する菜穂子に、自分で思っていたよりも強く心を掴まれていたようです。
エンディングの「ひこうき雲」でさらに涙が。
荒井由実時代の曲なのに、「この映画のために書き下ろしました」と言われたら信じてしまうくらいに映画とぴったり。
固定なイメージがつかない、広がりのある言葉を選ぶ詞のセンスが素晴らしい。
小学校高学年くらいなら大丈夫だと思うけど、幼児にはこの映画はお勧めしない。
良さがわかるにはある程度の知識を要する映画だと思う。
大正時代から太平洋戦争終戦までの歴史と当時の風俗、結核が死に至る病だったことなど。
トーマス・マンの魔の山もあらすじくらい知っておいたほうが良いかな。
「楽しむには知識が必要」と言うと気を悪くする人がいたりするけど、そういう心理はよくわからない。知らないなら知ればいい、それだけ。
よほどマニアックな知識がないと楽しめないというのは娯楽映画として失格だけど、そこまで特殊な知識ではなく、中学の授業で習うようなことや、ネットで検索できることなら今からでも知ったほうが楽しいのに。
追記:
門前の小僧もしくは習うより慣れろ式に大人の見ているものを理解する子どももいるので、子どもに見せること自体は反対じゃない。映像と音楽の美しさから吸収するものもあるかもしれない。
でも、自宅で寛いで見るならともかく、「外出先+2時間じっとする」という条件では難しいし、子どもにも周囲の観客にも不幸。
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