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2013年8月 4日 (日)

風立ちぬの長めの感想

「風立ちぬ」をこれまでに3回見て、公開している間にどうにかしてあと1、2回は見に行きたいと思っているところ。

「宮崎駿の次回作は『風立ちぬ』』のニュースを見た時は、堀辰雄の小説をそのまま映画化するのかと思ったので正直かなり失望したのでした。
それが西島秀俊が出演すると聞いて「行こうかな」に変わり、さらに「是非行きたい」になったのは登場人物の絵や背景が公開されてから。
絵を見て、宮崎駿の描く大正と昭和を見てみたいと思ったのです。
思えばポニョの時も、最初は興味がなかったのが新宿の西口広場で鞆の浦の絵を見て気が変わったので、映像の美しさは劇場に映画を見に行くかどうかを決める非常に大きなポイント。

江戸情緒を残した二郎の故郷、関東大震災から復興しつつある東京の和洋折衷な建物、名古屋に向かう汽車から見える輪中集落、昔の名古屋駅etc.、風景や町並みの描写がきめ細かで鑑賞回数を重ねるごとに発見がある。
「ハウルの動く城」のソフィの町のモデルになったコルマールのように古い町並みが現在進行形で生活の場として残っているヨーロッパと違って、日本では古民家博物館とか白黒写真で偲ぶしかない場所が多いから、そういう現代では残っていない風景がジブリの映画として残るのは素晴らしいことだと思う。
輪中は、小学校か中学の社会科で習ったきりだけど、画面に出てきて「これが輪中か」と感動。

軽井沢のホテルの夕食の場面で、二郎が白いスーツを着ているのが、「戦前の白い麻のスーツの紳士フェチ」にはたまりません。
それ以外も、二郎の姿勢のよさと上着の背中とズボンのラインとか、図面を引くときの手の美しさなども萌えポイント。

思った以上に物議を醸している庵野秀明の声、汽車で席を譲る時の第一声は違和感があるけど、菜穂子と「Le vent se leve,...」のやりとりをするあたりから気にならなくなり、「機関車は爆発などしない」で「合理的な理系の人」として受け入れ、最後にカプローニと出会った場面の「天国?、地獄かと思いましたよ」「一機も戻ってきませんでした」の台詞は余人に替えがたいほどぴったりしっくり。

菜穂子役の滝本美織は、宣伝番組で見ると普通のイマドキの女の子だけど、映画の中では戦前の上流のお嬢さんの声と話し方。
NHK-BS時代劇のくの一役も良かったし、プロフェッショナル。


上手いだろうと思っていたけど、予想以上に上手かったのが本庄役の西島秀俊。
本庄の「イラチな天才」ぶりと二郎への友情など微妙な感情のさしひきを適確に演じていて、この本庄像があったから二郎の茫洋とした良さが引き立ったと思う。
ファンとして鼻が高い(笑)。
なお、個人的な実写版「白い麻のスーツを着た紳士」のNo.1は「丘を越えて」の西島秀俊、次点がレオン・カーフェイだったりします。

カプローニと本庄の台詞は、二郎が黙っている時は同意しているのだと解釈している。
二郎にとってどうでもいいことは雑音として聞こえるし(少年時代のいじめっ子、会社の重役、会議に出席している軍人たち)、ちゃんと話を聞いていて異論がある時は二郎は意思表示をする(例:「鯖は美味いよ」「牛は好きだよ」)から、そうでない時は同意なのだろうと。
カプローニの台詞は全部好きで、萬斎の声で語られると音楽のよう。
でも、これをそのまま二郎に語らせると、映画としては陳腐になってしまうんだろうな。

あくまでも、飛行機の設計に邁進する二郎と仕事仲間とカプローニとの夢の中の出会いが描かれていてこそではあるんだけど、劇場に行くのをパスする要因になりかけた堀辰雄の風立ちぬ的成分にも強く心を動かされていたりもする。
初回は見過ごしてしまったのだけど、2回目見た時に、黒川邸から高原の病院に戻る汽車の中の菜穂子が、背中をまるめて具合が悪そうに座っている姿に胸を衝かれた。
台詞の説明は少ないというか、ほとんどないけど、画面ではいろいろなことを説明しているんだなーと。

ストーリーとかテーマはまったく違うんだけど、「風立ちぬ」は私にとって「ハワーズエンド」と似た読後感?の映画です。
近代史を知らないと面白さがわからないという点では「英国王のスピーチ」とも共通しているんだけど、映像では緻密に描写しつつ説明台詞を極力省いて見る側に委ねるという点においては「ハワーズエンド」だなと。
これは最大の賛辞です。

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