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2022年2月

2022年2月23日 (水)

ドーピングとコーチと選手の年齢

ワリエワのドーピング陽性とコーチの指導方法については分けて考えるべきという言う人がいて、基本的に「坊主は坊主、袈裟は袈裟」と思っているけど、今回の件はそうだろうか。
大人もしくはもう少し年嵩の選手のことならコーチといってもアドバイスだけとかもあり得るけど、トゥトベリーゼコーチは徹底した管理をすることで知られる人で門下生はほとんどが育成途中の18歳以下の子どもたち。
つかこうへいのエッセイで、演出家の条件として「女優の生理日がわかること」を挙げていた。
演出家でもそうなのに、管理が厳しいと言われるコーチが育成中の選手の薬物使用(による変化)に気が付かないなんてことがあるんだろうか。
ロシアがROCとして五輪に出場するに至った経緯からしてもコーチの関与が疑わしいし、関与がないとしても監督不行き届きにはなる。
だから、ドーピングとコーチを切り離しては考えられない。

トゥトベリーゼコーチの門下生の選手生命が短命であることについて「金メダルを獲得して一生安泰になるならいいじゃん」という意見があって、ちょっと薄ら寒い。
早すぎる引退自体の勿体なさもさることながら、選手生命の短さが故障によるものだとすると痛みを抱えて生きていくことになるわけです。
お金があったとしても、それって幸せなのか。
それよりも、いっそ早期リタイアなら救われるけど、芽が出ることもなく頑張るだけ頑張って、故障を抱えて消えていった選手も少なくないと思う。
そういうアレコレへの想像力の欠如が怖いのです。
コーチとしての手腕については18歳以上になっても現役を続ける選手が出てくるとか、健康体型の選手に高難度ジャンプを跳ばせるまでは評価保留としておきたい。

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2022年2月19日 (土)

表現を可能にするのは技術です

坂本花織が高難度ジャンプなしで銅メダルを獲得したことで「競技では表現よりも技術を競うべき」みたいな意見を見かけたけど、スピードに乗って滑るのは「技術」ですよ。
幅のあるジャンプも美しい着氷も技術。
坂本花織は四回転とトリプルアクセルは跳べないけど、ロシアの3選手もまた坂本のような幅と回転に余裕のあるジャンプは跳べないわけで。

スケーティングスキルとつなぎがPCS(演技構成点)の項目に入っているので紛らわしいけど。

(参考)
SS :Skating Skills (スケーティングスキル)スケート技術
TR :Transitions (トランジション)つなぎ
PE :Performance/Execution (パフォーマンス/エクスキューション)演技・実行
CH :Choreography (コリオグラフィー)振付・構成
IN :Interpretation (インタープレテーション)音楽の解釈


バンクーバー五輪の女子シングル、安藤美姫押しだったこともあって、リアルタイムではキム・ヨナの点数が高すぎると感じたけど、何年前だったかの再放送を見て納得しました。

男子シングルの四回転論争については四回転挑戦支持派だったけど、あの時の金メダリストの演技が芸術性というよりは単に守りに入っただけに思えたからで、今回のジェイソン・ブラウンの芸術性があれば考えは違ったかもしれない。
ジェイソン・ブラウンのスケーティングやつなぎのクオリティだって技術だから。
(彼のバレエ・ジャンプには三回転の得点をあげてもいいと思ってる)

ソチ五輪の男子シングルの最有力候補はパトリック・チャンで、それはずば抜けたスケーティング技術と共に四回転を跳んでいたから。
ソチの時点で羽生が超えるのは難しいだろうと思っていたら、羽生のスケーティングが遜色ないくらいになっていたので驚いたのでした。


パトリック・チャンのインタビュー
https://number.bunshun.jp/articles/-/851908


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「愛のムチ」とは、殴る側だけが使う言葉である

北京五輪・フィギュアスケート女子シングルFS、ワリエワ選手演技後のトゥトベリーゼの叱責が物議を醸していることについて。

コーチの言葉の意図を「どんな状況でもベストを尽くせ」と善意に解釈して擁護している人がいるけど、無理があるってものです。
「愛のムチ」という解釈も同じく。

それと、コーチの言動を批判する人は「厳しいコーチング」を否定しているわけじゃないですよ。
時によっては厳しくすることが愛情の場合もあるけど、今回は違うということ。
本人が禁止薬物の摂取を自覚しているのなら速やかに出場辞退すべきだったし、本人が関与していないのなら周囲が矢面に立たないように配慮すべきだった。
それもしないで叱責はないだろうということ。


ワリエワのドーピング問題 ロシア国内では根強い欧米の陰謀論
https://news.yahoo.co.jp/articles/3f878990f5a2bc486d1742e4b0551f44a38df0bd
「人は自分の鏡」みたいな話。

採点方式等で駆け引きみたいなのはあると思うけど、ロシア以外の国は日本も含めてそんなにガツガツしていない。
以前にアメリカのフィギュアの金メダリストOBのセレモニーを見たけど、医師とか弁護士、会社経営者が多くてセカンドキャリアがしっかりしている印象。
フィギュアスケートに関しては、アメリカの優先順位は「教育>スケート技術>ジャンプ」で健全だと思う。
個人レベルとか、他のスポーツのことは知らんけど。


バッハ会長、選手の年齢制限引き上げ示唆
https://news.yahoo.co.jp/articles/5db6cf57047598866233f77eb0decd6d283e94f4

ドーピング問題の根本的な解決にはならないけど、ドーピング保護規定と出場資格の乖離は解消できるし、「子どもに薬物を使ってトレーニングをしてジャンプを跳ばせても五輪に出られないよ」という牽制にはなるかな。

【北京冬季五輪】 IOC会長、「ぞっとした」 ワリエワへのコーチ陣の対応に(BBC News) - Yahoo!ニュース
これについては同意。
ただ、これほど選手に対して思いやりがあるのなら、東京五輪も酷暑の夏ではなく10月にする配慮が欲しかった。

トゥトベリーゼコーチについて、リプニツカヤ・メドベージェワまでは厳しいけど優秀なコーチなんだなという感想しかなかったけど、ザギトワの得点が1.1倍になるプログラム後半にジャンプ固め打ち戦略が成功してしまったことで、何かタガが外れたんじゃないかと思った。
この戦略の先駆者は安藤美姫だったけど、「グリーグのピアノ協奏曲」はプログラムのバランスには配慮していた。
ザギトワの「ドン・キホーテ」はそこを度外視した美意識の欠片もないプログラムだったから、「これを選手に滑らせるコーチって、勝つことしか考えていないんだ」と感じたのでした。

ところで、ドーピングの報道が出る前、競技年齢の若年化に町田樹が警鐘を鳴らしていた。

【町田樹解説】フィギュア競技年齢の若年化に危機感「選手人生が長く続かぬ競技に希望ない」
https://news.yahoo.co.jp/articles/e5ea7089eee4e7bb756e2b30527f70741fe47b99

ドーピング問題と選手の若年化は直接関係はないけど、今回いろいろ紛糾したのは16歳以下の保護規定があるが故だし、長く選手でいようと思えば(いさせようと思えば)薬物の摂取はしないしさせないと思う。

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2022年2月16日 (水)

ならぬものはならぬのです

ROCカミラ・ワリエワ選手のドーピング問題。

ビートたけしがテレビで「いっそ、なんでもアリの大会をやったらいい」と言っていて、それはそれで面白いと思う。
成人した選手が、自分の意志で、健康や将来が犠牲になり得る可能性があることを弁えた上で、薬物を使用してでも勝ちたいと思うのなら、そういう大会があってもいい。
でも、未成年はいけない。
今回のようにドーピング規定でさえ保護の対象になるような弱い存在なら尚更。
自分の意志だと思っていることが本当の意志でないこともある年齢だから。

それにしても「祖父のグラスを間違って・・・」って。
そんな言い訳ならしないほうが良かったのに。
禁止薬物が検出された事実は変わらないとしても、本人や家族の関知については30%網かけくらいのグレーだと思っていたけど、これじゃ85%くらいの限りなく黒に近いグレー。

16歳以下を考慮して処分を緩くするのであれば、資格停止の解除を早くして4年後にチャンスを与える道もあるけれど、彼女にとって4年後のチャンスは無意味なのだろうと思ってしまう、それが問題。
もちろんロシアにも長く活躍を続ける選手はいる。
トゥクタミシェワがそうだし、レオノワも長く活躍した。
でも、トゥトベリーゼコーチの門下生たちで体型変化やモチベーション低下を乗り越えた選手が今のところいない。
今活躍している子たちの4年後が見えなくて、とても刹那的。
15歳のワリエワは4年後は19歳だけど、19歳で活躍できるだろうと思えないことが不自然だと思う。

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2022年2月12日 (土)

ドライブ・マイ・カー、米アカデミー賞ノミネート

映画「ドライブ・マイ・カー」の海外の映画賞受賞やノミネートが続いている。
米アカデミー賞は作品賞・監督賞・脚色賞・国際長編映画賞のノミネート。
快挙です。

良い映画だし好きだから栄誉を受けるのはうれしいけど、この受賞ラッシュには戸惑いもある。
そんなにも彼らの琴線に触れたのはどこなんだろうと。
万国共通でこういう感覚は共有できるだろうと思うこともあるけど、そういうタイプの映画とは思わなかったので。
それを言うと村上春樹が世界で読まれていることにも言えることかもしれないけれど。

この映画は吹き替えにしたら多言語による舞台演出のくだりの良さが失われるから字幕鑑賞必須。
アメリカは相当なインテリでも字幕で映画を見る習慣がないと聞いていたのだけど、この評価の高さということは、字幕鑑賞する人が増えたんだろうか。
・・・と思っていたら、納得できる記事が。
『ドライブ・マイ・カー』に惚れ込むアメリカの映画界


村上春樹関連のニュースのコメント欄には、必ずといっていいほど「自分が村上春樹を読まなかった理由」を語りだす人が出現する。
映画賞受賞のニュースのコメント欄にもいた。
そういうことを語りたくなる存在なんだと勝手に納得しつつ、でも不思議。

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北京オリンピック(冬季)前半

フィギュア団体の銅メダルは快挙。
ペアの躍進が素晴らしい。


男子シングルは、銀・銅おめでとう。
羽生のSPはちょっと残念だったけど、最初の4回転が抜けてしまった後の演技は素晴らしかった。
FSについては、結果としては納得しているけど、音楽の解釈が8点台で5位の選手より低いのは納得していない。ジャッジが「天と地と」がわからないだけじゃないんですかね?
PCSを採点するジャッジのスケート以外の要素(音楽とかダンスとか)の知識レベルが知りたい。
4回転アクセルが認定されたのは良かった。完成形を見たいです。
無良崇人が解説で片足で降りていたことにしっかり言及していて、まあ当然と言えば当然なんだけど、「両足着氷はミスじゃないのでー」と放言していた同世代の某女子選手の存在は複雑だっただろうなと思ってしまった。
ソチ後の「6位様」の報道が酷かったのでちょっと老婆心ですが、羽生の4A認定は良かったけれど、メディアは銀の鍵山・銅の宇野、団体メダルの選手たちへのリスペクトも忘れないで欲しい。
「メダルより価値のある6位」とか、本当は跳べていない8トリプルの誤解を自ら解こうともしなかったりでイライラしたものでした。
まあ、羽生自身がそういう事態にならないように気を使うだろうから杞憂ですが(だから老婆心)。

スノーボードのハーフパイプ、NHKのサブチャンネル切替にもたついて平野歩夢の金メダルの瞬間を見逃した一人となりました。とほほ。
二回目の得点に言いたいことは山ほどあるけど、そんなもろもろを実力でねじ伏せた金メダル。


ジャンプの混合団体の失格問題
ルールの厳格化に否やはないけど、ルールを徹底することが目的なら検査方法が変わることを事前に告知すべきだった。
摘発することが目的なら別だけど、五輪でそれはなじまない。
スピード違反を取り締まっているんじゃないんだから。
それと、男性審判員が同席していたとかスパッツを脱がされたという報道もあるけど、本当だとしたら明白なセクハラなのだが。
Me tooであれだけ大騒ぎしたのだから、この件だってダメでしょ。

高梨選手の「他の選手の人生を変えてしまった」という発言にアレ?と思ったけど、NHKのデイリーハイライトの後に放送している過去の名場面を振り返る番組でリレハンメルの失速について原田雅彦監督が同じことを言っていた。
当時のマスメディアの報道等を思い起こせば原田雅彦がその思いを持ち続けているのはわかるけど、後輩がそれを受け継ぐことはないな。状況も違うし。
SNSがなかった時代に選手に向けられた誹謗中傷ってマスコミが発信したものですよね?ほんとろくでもない。
SNSだろうとマスメディアにだろうと、選手が自分の成績について謝罪する風潮がなくなればいいと思う。
「頑張りました」でいいと思う。

ドーピングのこと
エテリ・トゥトベリーゼコーチの門下生たちの早すぎるピークと引退について懐疑的に見ていたところへ今回の問題。
メドベージェワがカナダのオーサーに師事した時に受けた健康診断の数値がかなり悪かったという話もあったし、ドーピングじゃなくてもかなりギリギリの状態で練習しているとは思っていた。
検出されたという薬物が本当に必要な状態なら(つまり病気なら)、そもそも競技を出来る状態ではないということだし、病気じゃないのに摂取していたとすれば目的が疑わしいわけで。
選手が風邪薬も飲めないような規定は行き過ぎだと思うし、我那覇のような事態は起こして欲しくないけど、アンチ・ドーピングは選手の身体を守るための規定であるはず。
選手育成は健全であって欲しいから今回の件がうやむやにはなるのは望まない。
15歳の選手に罪はない。でも、将来的な健康への影響が心配なんです。

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