カテゴリー「本棚」の61件の記事

2022年8月15日 (月)

1Q84

このところのカルトの話で思い出したのが松本清張の「神々の乱心」、そして村上春樹の「1Q84」。
「1Q84」は宗教二世の話でもある。

安倍元首相銃撃を発端に、犯人が旧統一教会(現・世界平和統一過程連合)宗教二世であったことから関連のある政治家への批判が始まっているけど、いくつか解せないことがある。
合同結婚式騒ぎの頃にテレビで見たから紀藤弁護士の顔は覚えていて、今回の件で今も活動していることを知ったのだけど、合同結婚式騒ぎ以降の30年間メディア(主にテレビ)への露出がなかったのが不可解。
午後のワイドショーを見る生活ではなく、ワイドショーを自粛していたテレビ局もあったし、テレビの放送内容を逐一ネットに上げるこたつライターもいなかったし、よほど気にしていないと目にする機会が少なくなっていたのも確かだけど、それにしても少ない。

で、ちょっとググッてみたら、宗教二世のキーワードで「1Q84」を思い出した人が結構いるようだし、それくらい印象に残る話なのだけど、刊行時に宗教二世が話題になった記憶がない。
ヤナーチェクのCDが売れたという話題は覚えているのだけど。

「1Q84」が出たタイミングで宗教二世問題を世間に訴えていたら、それなりに衆目を集めただろうと思う。
累計で860万部と、読者数を低く見積もっても旧統一教会の信者数より多いわけですよ。
でも、信者二世の生活が話題になることも、反カルト法の立案もなかった。
(有田芳生元議員は本の批評だけしている)


メディアの取り上げ方にも疑問あり。

https://www.sankei.com/article/20220814-LXVLAJURL5NPTKFBSBQOABGKRI/
情けない『文春』の統一教会叩き

新聞、テレビ、週刊誌は安倍元総理批判のために統一教会の力を意図的に過大評価しているのではないか

宗教二世は看過できない問題と思いつつ、釈然としない思いがあったので、「過大評価」は納得できる。

文春を買わなくなって久しいけれど、ここ何年かは文春砲とか浮かれて芸能人のゴシップネタに終始していた印象。
思えば文春もガーシー化していたんですね。
統一教会の特集を組むのはいいけど今まで何をしてきたんだって思う。

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2022年3月18日 (金)

物語ウクライナの歴史とロシアについて

「物語 ウクライナの歴史」を読了。
ネットでKindle版を買おうとして、本棚にあるのを思い出しました。
20年くらい前の本だけど、ウクライナの歴史と周辺諸国との関係がよくわかる。
ルーツでいえばウクライナがルーシー(ロシア)のルーツで、キエフ大公国はビザンチン帝国の影響で文化レベルが高く、11世紀にフランスに嫁いだアンヌ・ド・キエフは当時としては超インテリだったという。
欧州の穀倉地帯で、ウォッカもボルシチに欠かせないビーツもウクライナの名産。
ロシアがウクライナを欲しがる理由もわかるし、過去に酷い目に遭わされてきたウクライナが徹底抗戦する理由もよくわかる。
絶対酷い目に遭うとわかっているのにロシアの要求を受け入れられるわけがない。
ウクライナは譲歩すべきとか言っているコメンテーターは一読するべき。(読んだ結果その意見だったら付ける薬がないが)

そして、並行して自炊済みの「ロシアについて」(司馬遼太郎)を読んでいます。
(こういう時に古い本を気軽に探せるのが電子書籍の良いところ)

「ロシアについて」より

外敵を異様におそれるだけでなく、病的な外国への猜疑心、そして潜在的な征服欲・・・

ソ連崩壊前に書かれたものなのに、30年以上経った今の状況でも当てはまる。

ロシアを漠然と大国と思っていたけど、国内の産業があまり育っていないことを今回知りました。
前述のように攻められているウクライナのほうが「持てる」国。
まさに狩猟民族が豊かな農耕民族を襲うの図。
「エロイカより愛をこめて」でKGBが西側を「帝国主義の犬め」と罵る場面があった。当時からロシアのほうが帝国主義だったが。

侵攻などしなければウクライナの人たちが悲惨な目に遭うこともなかったし、ロシアの人たちだってユニクロやリーバイスを買って、マックでハンバーガーを食べていられたのに。


 

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2021年12月19日 (日)

シェフは名探偵~ビストロ・パ・マルのレシピ帖

今更だけど、初夏の頃に放送されたドラマ「シェフは名探偵」の原作を読んでいます。
「タルト・タタンの夢」、「ヴァン・ショーをあなたに」、「マカロンはマカロン」の3作。
旅行に行けない気晴らしも兼ねて。

スープ・オウ・ピストゥ、タルタル、ブイヤベースetc.、フランスの地方のビストロ料理が次々出てくるのがドラマの大きな楽しみだったけど、原作を読んで、料理とエピソードの一つ一つが原作を尊重して作られていたことがわかった。
三舟シェフの外見とかソムリエの金子さんはドラマと原作で違うんだけど、ドラマのイメージが定着しているので本もそのイメージで読み進めている。

で、「ビストロ・パ・マルのレシピ帖」が出ていることを知り、Kindle版をダウンロード。
料理の数々を写真で見るのも楽しい。

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2020年10月12日 (月)

パンデミックの文明論

ヤマザキマリと中野信子共著の「パンデミックの文明論」を読みました。
対談なので読みやすい。

一番興味深かったのがイタリア人は感染症に神経質で、薬局でインフルエンザワクチンを購入して家で注射するということと「スペイン風邪のトラウマ」というくだり。
武漢ウィルスによるイタリアの医療崩壊はてっきり無頓着なせいだと思っていた。
でもそうではなく、イタリアでは家庭レベルでスペイン風邪の記憶が今も色濃く残っていて、そのトラウマも強く影響しているという。
日本人はスペイン風邪の記憶から手洗い・うがい・マスクが定着したけど、「え、トラウマがあるのにマスク拒否なの?」と思うけど、
ほんとに国や人によって違うんだなーとしみじみ。
怖いけどマスクもうがい手洗いもしない、でも怖いから病院には行き病床が逼迫する、と。
欧州の人がマスクを忌避するのはペスト流行時のカラス型のマスクの影響などもあるのだろうか、なんて思ったりした。

http://planet-b612.air-nifty.com/map/2020/03/post-535475.html

 

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2020年3月14日 (土)

王妃マルゴ、完結

萩尾望都の王妃マルゴが完結しました。
ジャック少年の登場には「こう来るか!」と膝を打ちました。
歴史ものなので登場人物の結末はわかっているのだけど、ジャックは実在ではあるけれどフィクションの部分が多いので、行く末が気になってしまった。
ヒロインのマルゴは知性と教養はありながら徹底した恋愛脳で、7巻の右往左往ぶりはかなり愚かしい。でも、だからこそリアリティを感じたりもする。
兄王たちは情緒不安定だし、ギーズ公は政治ではなく宗教のために行動していて、登場人物の中でちゃんと政治をしていたのは母后カトリーヌ・メディシスとナヴァルだけ。
その母后にしても必死でバランスをとろうとしていたけど、何を目指していたのかはわからないまま。
「大きなことばかり言う小さな弟」アランソン公の存在が意外と大きくて、マルゴや母后には軽く扱われているけど軍事的才能があるし、彼の死が三アンリの戦いの火蓋を落とすことになる。
母后がマルゴに対して冷淡な理由は具体的に語られず、心理を掘り下げると面白そうだけど想像の余地を残しているのもまた良かったりする。

7巻と8巻を読む間に佐藤賢一の「ブルボン王朝」を読みました。
カペー朝、ヴァロア朝に比べて、ブルボン朝の王たちはあまりにポピュラーすぎて興味がなかったのだけど、王家となる前のブルボン家についてのくだりが面白かった。

今まで知ることのなかったマルゴの姉たちが出てきたのも興味深かった。
エリザヴェートはオペラの登場人物にもなっているし、みんな劇的。

ギーズ公の母アンナ・デステがルクレツィア・ボルジアの孫で、したがってギーズ公アンリは曾孫なのが塩野七生のルネサンスものを愛読した者としては格別な感慨があります。
アンリエットの夫のヌヴェール公はイザベラ・デステの孫だし、「ルネサンスの女たち」の後日譚として読んでも面白いです。

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2020年3月 2日 (月)

読書のススメ

休校、イベント自粛、美術館も遊園地も閉まっている間、子どもたちがやることないなら読書したらいいんじゃないかな。
こういう時なので、なんだったら伝染病とか感染症が出てくる本でもどうかなと思ったらカミュのペストが売れているらしい。
同じことを考える人はいるものですね。

ペストは休校の対象向けとは言い難いので、以下は小学校高学年から高校生に勧めたい小説リスト

---小学校高学年以上
鹿の王 上橋菜穂子 架空の伝染病
隔離された家(アンの友達) ルーシー・モンゴメリ 天然痘
没我の精神(アンをめぐる人々) ルーシー・モンゴメリ 天然痘

---高校生以上
細雪 谷崎潤一郎 猩紅熱と赤痢
デカメロン ボッカチオ ペストの流行から避難している人たちが語る設定
鏡は横にひび割れて アガサ・クリスティ 風疹

 

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2020年2月11日 (火)

モンプチ、嫁はフランス人

新刊の「私はカレン、日本に恋したフランス人」が好評らしく、「パリ愛してるぜ」以来の読者としてなんだかうれしい。
成田空港の音とかimodeとか、カレンさんが好きな日本のポイントが「そうきたかー」という感じ。
「こんなに日本を好きになってくれてありがとう」、です。
各エピソード冒頭のカレンさんがだんだん可愛くなっているのもいい。

旬なのは新刊「私はカレン」なのですが、今更ながらではありますが既刊の「モンプチ 嫁はフランス人」のこと。
最近イクメン絡みの記事を読むことが多いんだけど、小さい子供を持つお父さん、これから父になろうとする男性たちにも「嫁はフランス人」を是非勧めたい。
子どもの行動の観察が細かくて、自分の子ども時代を忘れてしまった人・子どもへの接し方がわからないお父さんたちには参考になると思うので。
もちろん、奥さんとの異文化コミュニケーションの部分も面白いけど。
幼児に生半可なバイリンガル教育をして日本語も外国語も中途半端にしてしまう日本人親が少なからずいるけど、「嫁はフランス人」はカレンさんがきちんと日本語習得に取り組んだ人なので、言語教育についても納得できるところが多いです。
「牛乳飲む」と現在形の後に「牛乳飲んだ」と過去形で話す息子の成長に感動するカレンさんが好き。

フランスを旅行する時、移動中の列車で親子連れを見る機会があるけど、私が見かけたフランス人の若いお父さんはちゃんと「父親」していた。
「お母さんの代わり」じゃないのですね。あくまでも父として。
で、それによってお母さんの負担も軽減している。
別にフランスが全部偉いわけじゃないけど、そこのところはちょっとリスペクトしています。

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2019年12月23日 (月)

十二国記 白銀の墟 玄の月

ようやく出ました。
待ちに待った十二国記 戴国の完結編です。
二巻まではどうなるんだろうと思ったけど、三巻から怒涛の展開。
夜更かしして一気に読んでしまいました。
随所で「魔性の子」とつながっているのがうれしかった。
読み終わってしまったけど、泰麒の看板見たさに書店に行ったりしています。

で、その後「暁の天、黄昏の岸」を読み返しました。
前に読んだ時は、世界を壊しにかかっているように思えて、この先どうなるのか心配だったけど、
完結した後はただただ懐かしく読めた。
読み返すと氾王がいいキャラでした。
そして、泰麒と陽子が「高里です」「中島です」と挨拶する場面が好き。
ファンタジーの世界と現実がリンクする気がするからだろうか。

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2019年6月16日 (日)

時代の香りを伝えてくれた人たち

相次いで好きな人たちの訃報が。

田辺聖子の古典には本当にお世話になりました。
「文車の日記」、「鬼の女房」、「新源氏物語」、「むかしあけぼの」、「隼別王子の叛乱」が特に好き。「舞え舞え蝸牛」と「私本・源氏物語」も。
わかりやすくて、くだけてはいるけど、その時代の雰囲気が感じられる解釈と描写。
昔の人も気持ちは今と変わらないなと感じつつ、決して「現代人」ではないという。
「千すじの黒髪」、「花衣ぬぐやまつわる」などの評伝は、その人物の欠点や悪評などにも触れつつ、常にフラットな視点で、欠点も含めて愛情が感じられる筆致が好きだった。
古典以外では「日毎の美女」が今読んでも笑える。社会的な背景はかなり変化したけれど。


そしてフランコ・ゼッフィレッリ監督。
「ロミオとジュリエット」は何度も映画館に足を運びました。
この映画から中世からルネサンスに興味を持ったことが、塩野七生を読むようになったきっかけにもなった。
もとは、ああいう衣装を身に着けた人たちが生きていた時代が知りたいという、ちょっとミーハーな動機だったのだけど。
古典作品を、本格的ではあるけれど必ずしも原作や歴史に忠実ではない形で映画化したという点で先駆的な監督だったと思う。
「ロミオとジュリエット」にしても「ハムレット」にしても、かなり斬新な描き方だったけれど、それでいて背景となる時代をしっかりと感じられたし、省略はしても改ざんはしない点も好きだった。節度っていうのだろうか。
「ヤング・トスカニーニ」の公開に合わせて開催された「フランコ・ゼッフィレッリの世界」という映画の衣装と絵コンテの展覧会で、ジュリエットの赤いドレスを生で見られたのは貴重な経験でその時の図録は永久保存版。
トゥーランドットが水色のイメージになったのはゼッフィレッリ演出のオペラをテレビで見てからです。
映画上映用に編集した「ナザレのイエス」を劇場で見たけれど、完全版のDVDが出ていた。今は中古のみだけど、再発売してくれないだろうか。

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2018年11月18日 (日)

かつての万葉集解読ブームに思うこと

1990年代前半に「万葉集を古代朝鮮語で解読する」という本が相次いで出版されたことがあった。
ブームだったかも。
ちょうど梅原猛の「隠された十字架」、「水底の歌」を読んだところで、芋づる式の興味で藤村由加の「人麻呂の暗号」を読みました。

「人麻呂の暗号」は「実は草壁皇子の鎮魂の意味が込められている」などの解釈が魅力的だったのだけど、彼女たち(藤村由加は四人の名前を組み合わせた筆名)が学んだのは韓国語と中国語(と記憶している)で、現代の韓国語と万葉仮名を結びつけるのは強引すぎるというモヤモヤは残った。

それで、次に選んだのが古代の韓国語で万葉集を解読したという李寧煕の「枕詞の秘密」。
古代韓国語なら関連性はありそうだと期待したけど、いちいち変な解釈をして、あまりに不愉快なので途中で放り出した。

半島起源説に特にアレルギーはないし、古代朝鮮語と古代日本語がどう対応しているかには興味があった。
日韓とも昔の公文書は漢文だったし、漢字の読みに呉音・漢音・唐音があるように古代朝鮮語の読み(音)と対応する漢字があるのなら、それを元に解読できるのかなと思ったのだけど、違った。
連想ゲームみたいなこじつけを羅列して「古代朝鮮語ではこう読むんです!」と言うばかり。
古代朝鮮語の語彙は出てくるけど、それがどの文字に対応するのかを言わない。
不完全でも古代朝鮮語と漢字と万葉仮名の対応表とか一覧表があれば、もう少し説得力があったと思うんだけど。
これで古来から有名な歌を春歌みたいに解釈されましてもって感じだった。

「文献が残っていない古代朝鮮語」(高麗あたりで焚書にあったらしい)で「まとまった形で残っていて体系づけられている万葉仮名」を解読することにそもそも無理があったわけです。
逆に万葉仮名で古代朝鮮語を類推するほうがずっと合理的。
そういう本が売れるかどうかは知らないけど。

韓国及び韓国好きの人に対して、軽微ではあるけれど警戒心を抱くようになったのは、これ以来だった気がする。
根拠のない上から目線とおめでたさ。


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中国でピンインを読めない人が増えている人がいるということを小耳に挟んで、どうやって入力しているのかと思ったら注音があるのか。
中国語の発音記号。
ハングルって、注音記号と同じようなものだと思うけど、発音記号だけでちゃんと表現できるんだろうか?
いろいろなことに漢字廃止が影響していそうに思う。
来年から漢字教育が復活するそうだけど、まともに話し合えるようになるのは再び漢字が定着してからかもしれない。


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漢字がないほうが外国人が日本語を学ぶ時にとっつきやすいという意見を見たけど、そりゃ観光旅行レベルならそれでいいけど、もっと突っ込んだ話をしたい時にどうするんだよと思った。

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